500万円で高断熱高気密住宅にリフォーム/札幌市北区S邸

札幌市北区拓北のS邸は、劣化した外壁と屋根を交換するタイミングで、家を暖かくする工事を一緒に実施する「住んだままの断熱リフォーム」を行いました。

昭和63年(1988年)に新築したSさんのおうち。築28年を迎えていました。外壁サイディングの傷みが気になりだした3年ほど前から『どうせ家を直すならいっしょに寒さも何とかしたい』を考えるようになり、ふたりでいろいろ探し始めます。

 

壁や屋根を解体して骨組みだけを残し、そこからリフォームすれば新築と同じく暖かくなることはわかりました。しかし、それはふたりの望むリフォームではありませんでした。

「この家が気に入っていますし、大がかりなリフォームをやれば費用がかかりすぎる。内装の変更は望んでいないし、ワンちゃんが同居しているので、ストレスがかかる引っ越しもしたくありませんでした」とSさん。

 

説明がとてもわかりやすかった

インターネットであったかハウス河合建築事務所を見つけたSさんは、同社が毎月開催している勉強会に参加しました。いまの家がなぜ寒いのか、当時の工事のどこがダメなのか、どこをどう変えれば暖かくなるのかを聞きました。

 

「説明がわかりやすく、納得できました。シロウトなりにいろいろ考えていたのですが、気流止めとその施工法には驚きでした」とSさん。

 

勉強会での説明がわかりやすかったので、工事することへの不安は全くなかったそう。現地調査に来てもらい、軒先など予想外の部分に腐れが見つかって工事予算が少しふくらみましたが、このままでは家がもたないとわかったので、この機会に悪い部分はすべて直しました。その代わり、室内の工事は正真正銘、全くなし。住んだままの状態で外装部分だけの工事を行ったのです。

 

工事は2016年のお盆明けに終了。

 

「無落雪」化で除雪負担を解消

リフォームの経験談を2016年の大みそか、気温がマイナス1.6℃の日に伺いにお邪魔しました。

 

札幌は年にもよりますが除雪負担が大きい地域です。玄関と駐車スペースの前の除雪でさえたいへんなのに、屋根雪の処理は安全面でも負担がとても大きくなります。

 

Sさんにとって「屋根の雪」対策は、リフォームの大きなテーマの一つでした。

 

この年の札幌の12月は、50年ぶりの積雪90センチを超えました。1階部分の三角屋根に雪が乗っていますが、これが全部落雪していたら除雪の負担は大変でした。

 

S邸は、外観のデザインは変えることなく、無落雪屋根に改修しています。ちょうどトタンの塗り替えも必要になっていたので、この機会に修理することは決めていました。

 

ただ、雪の落ちない屋根にしたかったが、どうやったら良いのか、技術的なことはよくわからなかったといいます。勾配屋根を大改修してスノーダクトの無落雪屋根に変更することはできますが、屋根構造を変えるための工事費がかさみます。

 

一方、単純に雪が落ちにくい屋根に葺き替えるだけだと、氷堤やツララなど別の障害が軒先に発生し、最悪の場合は軒先を折ってしまうといいます。

 

今回の工事は、屋根材を雪が落ちにくいものにふき替えました。気流止め工事によって暖かさを実現するとともに、屋根裏に逃げていた熱を大幅に減らしたため、雪が落ちにくい屋根に葺き替えても氷堤などの問題が発生しないのです。

 

写真のように積雪90cmの雪をしっかり載せたまま、軒先には氷堤の発生もありませんでした。工事はふき替えだけなので、結果、工事費も抑えられます。

なお、S邸は、既存屋根をはがすと軒先がひどく傷んでいました。腐った部分を交換し、防水施工をしてから長尺横葺きのガルバリウム鋼板仕上げにしました。

 

外壁は気流止めと耐震補強、サイディング張替

外壁は、まず現場調査でサイディングを1枚はがしてみました。一回床下に気流止めがありませんでした。

既存サイディングの劣化も、調査の結果、原因がはっきりしました。

写真・時計回りに:外壁をはがし、土台まわりに気流止めシート(オレンジ色)を設置し、耐震補強のプレートも設置。桁まわりも同じく気流止め工事を行いました。

窓:引き違い窓を開き窓に交換・それ以外はガラスを最新の高断熱ガラスに交換しました。赤丸の引き違いを開き窓に変更しました。

床下はウレタン吹き付けで断熱補強しました。

 

換気レジスター交換

写真・時計回りに:既存換気口をふさぎ、小型の給気レジスターを設置しました。

 

Sさんにお話を伺いました。

 

―改修後の違い、感じますか?

「すきま風がまったくなくなり、どの部屋も本当に暖かくなりました。室内の改修はしていませんし、暖房も、リビングの灯油FFストーブ1台だけ。これまでは、ストーブのない2階は寒かったですが、断熱リフォーム後は、ストーブの温度を抑えても、2階も含めて家じゅうが暖かくなりました。ワンちゃんがいるので、外出中もストーブをつけっぱなしの暮らしですが、かなりストーブを弱めても大丈夫です。この断熱改修で暖かくなることをみんな知らないと思う」

―窓の結露は?

「すきま風がひどかった引き違い窓の交換と、ガラス交換によって、窓の結露はほとんどなくなりました。すき間がなくなったことで夜中に入る除雪車の音が気にならなくなったんですよ」

 

―リフォームの方法、インターネットなどで研究されたそうですね。

「外壁の張替だけでも200万円近くかかるようです。劣化の点検をして修繕し、耐震対策もしたうえで屋根も壁も張り替えて、家が暖かくなり、雪が落ちなくなって、このお値段なら、安いと思います」

 

最後に  家の寒さと健康リスクの関係について

 <慶応大学・伊香賀教授の講演スライドより>

 

最近の研究によって、家の中の寒さと健康に与えるリスクの関係が徐々にわかってきています。

 

慶應義塾大学伊香賀俊治教授らが中心となって行った調査によると、

 

寒い住宅の10年後高血圧発病リスクは、暖かい住宅の6.6倍、暖かい住宅では生活活動量が増え、一日1400歩に相当する、寒い住宅では認知機能が低下する確率が4倍に増える、暖かい住宅では寿命が4歳伸びる可能性がある

 

-など、主に高齢者にとって寒い住宅に住み続けるリスクの高さと、暖かい住宅の健康維持・増進効果が認められます。

 

若いころは大丈夫でも、高齢になると寒い家に暮らすことで健康リスクが高くなる。

 

そう難しく考えなくても、徐々に寒さが身にこたえるようになりますよね。

 

最新の北海道の住宅は、寒さを気にする必要がないレベルになって来ていますが、平成初期の家までは寒い家が多く残っています。